CHAPTER ONE / 全文
第一章 昼と彼
自分を変えればいいのだろうか。
では、どこまで。
彼は、自分の境遇について考えていた。
環境というものは、自分の願望どおりには、なかなか変わらない。 変えるというより、適応するといったほうが近いのかもしれない。
構造というルールの中で、どう立ち回るか。 自分のどこを変え、何を残すか。
合わせれば、生きやすくなることもある。
けれど、合わせるために手放したものは、そのあと、どこへ行くのだろう。
カエルの子は、カエルである。
もし、そのカエルに、一見しただけでは誰にも分からない、社会的な評価を受けにくい特殊な才能があったとしたら。
そのカエルは、どう生きるのだろう。
見たところ、普通のカエルである。 ほかのカエルと同じように跳び、同じように水へ入る。
けれど、自分には特殊な何かがあると信じている。
誰にも気づかれなければ、普通のカエルとして生きていくのか。 気づいてもらうために、生きていくのか。
それとも、気づかれるかどうかとは別に、その何かを使って生きていける場所があるのか。
ただし、それは彼に限った話ではない。 形こそ違えど、誰もがどこかで思うことなのかもしれない。
社会や文化の中で生きるには、どうしたらいいのか。
そこに収まりきらないものも、捨てずにいられるのか。
このカエルもまた、考えるのである。
CHAPTER TWO / 一部
第二章 昼の道と蝶
昼間、二人は道を並んで歩いていた。
ケタケタと、屈託なく笑い合う。
太陽が眩しかった。 彼は目を細めた。
その隣で、彼女はまだ笑っていた。
どこかへ出かける。 ただ、笑いながら、並んで歩く。
普通に生きられれば――どれほど安らかだろう。
そう思う彼も、傍目には、女性と歩く普通の男だった。
歩幅がずれる。 どちらからともなく、少し歩みを緩める。 また、並ぶ。
彼の歩く道は、他人の目には茨の道に映るのかもしれない。 されど彼には、意外にも悪くなかった。
むしろそこは、誰にも侵されない、静かな居処のように思えた。
けれど、昼は短く感じられた。
道に落ちる影が、いつの間にか長くなっていた。 笑い声の途切れる時間も、少しずつ長くなった。
傷ついた蝶が、外敵の目に留まらぬよう、ひっそりと影に身を潜めている。
彼は、その影へ近づいた。
彼女が顔を上げる。 隣が、少し空いた。
彼は、そこへ身を寄せた。
翅は、美しければ美しいほど、その傷も深く見える。
本当に深いのか。 美しさが、それを際立たせているだけなのか。
彼には、分からなかった。
ただ、その傷のあることは知っていた。 触れれば、痛むことも。
それは、彼が鈍いからではない。 もちろん、無関心だからでもない。
傷のあることと、そばにいたいことが、彼の中では争わなかった。
彼女の隣にいる。 彼女も、そこにいる。
何かをしているというほどのこともなく、時間が過ぎた。
痛みを分かち合えているのかどうかは、分からない。
ただ、二人でいるあいだ、彼女は翅を隠さなかった。

